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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1339号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人富岡秀夫の上告趣意第一点は、原判決が被告人に対し、公職選挙法二五二条三項によって同条一項の規定を適用しない旨の言渡をしなかった第一審判決を維持したことは憲法一四条一項、一五条に違背する旨主張するが、公職選挙法二五二条一項及び三項の規定が所論憲法の各法条に違反しないことは当裁判所大法廷の判例とするところであって、(昭和二九年(あ)四三九号昭和三〇年二月九日大法廷判決)、右公職選挙法二五二条一項の規定を適用しない旨の言渡をすると否とは事実審裁判所の自由に決し得るところであるから、論旨は理由がない。

論旨はまた共同正犯者たる佐藤金三郎が公民権を停止せられなかったにもかかわらず被告人がこれを停止されたことを非難している。しかし当裁判所の判例は、犯情のある面において他の犯人に類似した犯人がこれより重く処罰せられることがあっても憲法一四条に違反するものでない旨を判示している(昭和二三年(れ)四三五号同年一〇月六日大法廷判決)。公民権停止についても同様の理論があてはまること、右の判例の趣旨に照らして明らかであるから、この点の論旨もまた理由がない。

弁護人長谷川太一郎の上告趣意第一点及び第二点は、違憲を主張するけれども、その実質は単なる刑訴法解釈の問題であって、適法な上告理由とならない。のみならず選挙人又は選挙運動者が投票取まとめ運動の報酬たる非合法的金員とそうでない合法的金員とを一括して供与を受けしかもその両者の割合明らかでないときには、その金員全部につき公職選挙法二二一条一項四号の受供与罪が成立するものと解するを相当とする(昭和八年(れ)七三八号同年七月六日大審院第二刑事部判決参照)から、所論はすべて採用できない。

同長谷川太一郎の上告趣意第三点は、第一審判決は被告人の自白のみにより有罪を認定した憲法三八条並に刑訴三一九条の違反があり、これを是認した原審は憲法三一条に違背すると主張するのであるが、第一審判決は被告人の自白以外に同判決掲記の各証拠を綜合して犯罪事実を認定しているのであって、自白の補強証拠は犯罪事実の全部に亘って存することを要しないこと当裁判所の判例(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日大法廷判決集三巻六号七三四頁)であるから、論旨は理由がない。

弁護人富岡秀夫の上告趣意第二点、同長谷川太一郎上告趣意第四点はいずれも量刑不当の主張で、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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